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イケメン戦国〜天邪鬼と学園生活〜

第145章 涙色の答案用紙(9)天音ちゃんside




でも、なれなかった。
ひまりちゃんには。


唇が微かに触れた一瞬……


いっちゃんは気づいた。



翡翠色の瞳が開き大きく揺れる。

そしてその瞳に私を映す前に……


ジャリッ……



「ひまり!!」



いっちゃんは走り去るひまりちゃんを、捉えて……

物凄い速さで起き上がり、
呆気なく私の前から姿を消す。



(何が………)



何がしたかったのか
自分でもわからない。
置き去りにされた、古い本と私。



(ファーストキスだったんだよ…?)



謝って欲しいわけじゃない。
自分もそのつもりだった。


また、苦しくなる胸。


重い足を立たせて、走る。
何年ぶりだろう。

走ったのなんて記憶にないぐらい。


ずるいことして、酷いことして。
それでもまだ、
私は二人の仲を裂こうとする。



「な、んで。あそこに…何で走って…っ」


「だ、ってファーストキスだ、ったんだよ。はぁ…はぁ…置いてか、ないで…」



そう、理由をこじつけた。
プロフィール帳を書いてもらうのに、



ーー唐辛子入り赤色クッキー!



こじつけてクッキーを食べて貰った理由みたいに。

あの時の純粋な理由とは、正反対な汚い理由で。もう、後戻りもやり直しも出来なくて、大好きな二人を私は壊してしまったことに……






ザァァァァ……ッ。




「いっちゃん!このままだと、本当に風邪引いて……」


「…………」



雨の中、ひまりちゃんの部屋を見上げたいっちゃんの頬に伝う雫を見た時に、ようやく気づいた。


雨か、涙がわからない。


いっちゃんは、手に持っていた手紙をグシャリと握りつぶす。




「……な、んでひまりに」




いっちゃんなギリっと唇を噛み、頭を下げた。

ふわふわの髪がべったり濡れて……

流れるように雫が落ちる。

私も壊れていたのかもしれない。

窓に映る人影。


それを見た時。


パシャッ……



傘を放り投げて……




両手を広げて抱き着く。




ぐっしょりと濡れたシャツ。



それでも私はお構い無しに、その胸に顔を埋めた。


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