第145章 涙色の答案用紙(9)天音ちゃんside
ガヤガヤ騒がしい教室。
その中でも二人は眩しくて。
「先に行って、待ってる」
ひまりちゃんのヘアピンに触れる、
いっちゃんの優しい横顔。
「すぐに行くから。……待ってて」
甘い花の香り。
そして花が咲いたような笑顔。
横から見る二人は……
花火のように見えた。
真っ直ぐ夜空に打ち上がる一筋の光。
儚く散る大輪の花とは違って……
いつまでも終わらないで欲しい……
そんな余韻を残してゆっくりと、溶け込むような……
光に見えた。
私は気づかれないように後ろの手に、ある物を隠す。ひまりちゃんが小さい頃から愛用している、トリートメント。
さっきいっちゃんに放課後、大事な場所に行く用事があるから保健室で待っているように言われた。
大事な場所がプロフィール帳に書いてあった、想い出の場所で。
用事がひまりちゃんとの何かだって。
二人のやり取りを見てわかった。
いっちゃんの背中を見ながら歩き、保健室に入る。掴まれた腕に、内心ドキドキしたのは表情には出せない。
「……事情は聞いている。具合が悪い時は、遠慮せず言え」
「ありがとうございます」
それとなく、二人の想い出の場所を聞き出した私。時計の針をチラチラ確認しながら、暫くソファから黙々と作業する白衣姿の先生を見続ける。
そして、
(ひまりちゃんに、また嘘をついた)
放課後に先生が呼んでいたのは、嘘。
本当は放課後に、ひまりちゃんに校内を案内して貰えと言われただけ。
明日にはバレる嘘。
再び襲う罪悪感。
それでも、私はトイレに行くふりをして鏡の前でヘアトリートメントを付けた瞬間。
甘い花の香りが自分の髪に。
(今日だけ……一回だけ……)
言い訳しながら。
それでもひまりちゃんになれた気がして、嬉しかった。