第145章 涙色の答案用紙(9)天音ちゃんside
コンコン……。
部屋のノックが数回。
私は、ベットの中に箱とピンク色の封筒を隠して立ち上がる。
「俺、シャワーしか使ってないから。風呂好きな時に入って」
「ごめんね。私が来たから気を使わせてるよね……」
私が後から使うのを気にしてシャワーだけにして貰ってるのが申し訳なくて、何度も謝る。すると、いっちゃんは濡れた猫っ毛の髪をタオルで拭きながら、
「基本、夏はシャワーだけだから」
気にしなくていい。
そう一言だけ告げて部屋の中に。
いっちゃんのさり気ない優しさ。
ーー白鳥にあげる。また、倒れたら困るし。幸運効果あるみたいだから。
ーーでも、ひまりちゃんに悪いよ。
ーーひまりは、三つ葉。気にしなくていい。はい。
ーーありがとう!
ほんわかしたあったかい気持ち。
それが胸に広がって。
新学期。
でも……
次の日ひまりちゃんに会った瞬間。
「白鳥天音って、天音ちゃん!?」
髪についた三つ葉のヘアピンを見て。
「ぷっ!……予想通りの反応」
「え!?家康知ってたの!?」
変わらない二人のやりとりを見て。
「まじか!!まじか!まじか!」
「夏休み何があったんだぁ〜〜?」
冷やかされて、照れる二人を見て。
あの時生まれた、
もう一人の私が姿を現した。
「いいの?やったぁー!天音ちゃん!いっぱい話、しようね!」
何一つ変わらないひまりちゃん。
明るくて、お姫様みたいで、真っ直ぐ。
髪の香りさえ変わっていない。
そして……
小学生の私にはわからなかった。
三つ葉に込めたいっちゃんの想いが。
でも……
高校生になった今ならわかる。
(一度だけで良い)
ひまりちゃんみたいに。
いっちゃんに真っ直ぐ見て欲しい。