第145章 涙色の答案用紙(9)天音ちゃんside
春の陽気に包まれて。
二人は春風を届けるように、病室に来てくれた。
「え!今日はお庭で遊べるの?」
「うん。体調も良くて夏には退院出来るかもしれない」
「調子乗ってはしゃがないでよ」
ドジだから。
いっちゃんはひまりちゃんの、お姫様みたいな栗色の髪を指でグイッと引っ張る。
「いたいーっ!もう!お返し〜」
「わぁ!な、何して!」
ひまりちゃんも負けじと反撃。いっちゃんのお日様みたいな髪を、ぐしゃぐしゃに。そして、二人は睨めっこした後、いつも背中を向けてケンカ。
私はそんな二人を見ているのが、大好きだった。
ーーーーーーーー
病院の真ん中。
花壇の綺麗な広いお庭。
私は久しぶりに太陽の光をいっぱい浴びて、かくれんぼしたり、ダルマさん転んだをして遊んだ。
二人は私の心臓に負担がかからないように、全部ゆっくり。走ったりせずに、かくれんぼも私が隠れる番の時は、数を多めに数えてくれたりして……
「いーち、にーい……」
ひまりちゃんが隠れんぼの鬼。
(ここに隠れようかな?)
垣根の間に僅かに空いた穴。しゃがみこんで後ろ側に回ると、そこには先約が。屈みこんで何かガサゴソしている、いっちゃんの背中。
私は気づかれないように、静かに近づいて腕を伸ばす。
(声出したらわかる?)
だぁーれだ!って目元を隠しながら、言おうか悩んでいると……
「白鳥。今は、隠れんぼ中」
一瞬、ドクンッて胸が鳴る。
何で私ってわかったの……?
胸が病気とは違う感じがして、モヤモヤしてでも嬉しくて……理由を聞いた後に、今度は凄く苦しくなった。
「ひまりだったら、髪の香りですぐわかるから」
髪の香り。
つまり、私なのがわかったわけじゃなく。ひまりちゃんじゃないことが、わかったってコト?
ドクドクドク……
「白鳥!!」
「天音ちゃん!!」
胸を抱えむ。
苦しくて、いっちゃんは急いで誰かを呼びに走って行って。
「すぐ、先生来るからね!ごめんね……っ!無理させちゃっ…て……」
ひまりちゃんは、鼻をすすりながらずっと私の背中をさすってくれる。
気がついたら病室のベッドに、戻っていた。