第144章 涙色の答案用紙(8)※小学生時代
コンコン。
「天音ちゃん、体温測りますよ」
部屋に入ってきた看護婦さん。
私と、家康は鞄を持ってパイプ椅子から立ち上がる。
また、来るね!
手を振る天音ちゃんに、
そう伝え病室を後にした。
「ちゃんと、全部書いてね!」
「はいはい。……ほんと、何で女子はこんなに面倒なの好きなわけ?」
「想い出は大事なの!」
「ふーん。……まぁ、いいけど」
私達は時刻表で時間を確認すると、ベンチに座りバスを待つ。珍しく他に乗る人がいなくて小学生二人だけだと、ベンチはガラガラ。
家康は体を動かしてちょっとだけ、私との距離を取りその空いたスペースに、塾鞄をボンッ!と、置く。そしてチャックを開け、中にプロフィール帳の用紙をしまうのが見えた。
「明日も塾あるの?」
「休み。ってか、昨日言わなかった?休みなら学校のプール行こう行こうって、騒いでたの誰だっけ?」
「あ!てへっ!忘れてたぁ〜」
「ばかひまり」
「ばかじゃないもん!」
「何ですぐ…忘れ…ブツブツ」
口開けば意地悪連発の家康。
フンってお互い一緒のタイミングで、
そっぽを向いた。
(優しい時もあるんだけどなぁ〜)
チラッと家康を見る。
ムスッとしていても、
やっぱりキラキラ見えるから不思議。
お母さんが言ってた初恋。
まだ、よくわからないけど。
大好きだから、いっか!
(あの項目に、何て書くのかな?)
普通に、ただのバカとか?
(それはちょっと……)
地面に届かない足をプラプラ動かしながら、顔を上げる。
きれいな青い空。
もくもくと流れていく綿菓子みたいな雲。
私はつい口喧嘩したのも忘れて、
指を空に向け……
あれはケーキみたい!
あっちは、おにぎり!
はしゃぎ声を上げて、家康の肩を叩く。
「ひまりには、食べ物にしか見えないの?」
「だって〜見えるんだもん!……お腹空いてるからかな??」
そう言って、自分のお腹に手を置くと……
家康は、ハーフパンツのポケットに手を入れて、何かを取り出した。