第144章 涙色の答案用紙(8)※小学生時代
シャカシャカ……。
何となく聞きそびれちゃって。
淡々とクッキー作りを二人で始める。
小麦粉まみれの手。
大きなまな板の上で、生地を伸ばしながら二人で何の形にするって話し合う。
「星と月もある!あとハートも!う〜ん、どれも可愛いから全部したいね!」
「ひまりちゃんは、ハート柄が良いと思う」
「うん!好きだし!そうするね!」
鼻歌を口づさみながら、私は三枚だけハート型に型抜きしてキッチングペーパーの上に並べる。後は、焼くだけだね!
天音ちゃんは目元を細めて静かに笑うと……手袋をしてオーブンの中に、鉄板を入れる。
オーブンから少しだけ離れて、クッキーが焼けるのをひたすら待ちながら、夏休みにあったことを私は話した。夏祭りで、家康に射的で指輪を取って貰ったこと。プールに行ったこと。
「この前なんてね!宿題教えて貰う間、ずっとばかばか言うんだよ〜」
つい昨日あった出来事を思い出し、ぷぅとふくれっ面をすると天音ちゃんは、笑う。
(やっぱり、家康の話をするといっぱい笑ってくれる!でも、何でかな?)
不思議に思いつつも普段からあまり笑顔を見せない天音ちゃん。ただ、いっぱい笑って欲しい!
私が家康の話を良くするのは、それが理由だった。
「ひまりちゃんは、いっちゃんのことどう思ってるの?」
「え?どうしたの急に?」
「この前最近、いっちゃんがキラキラして見えるって言ってなかった?」
あ。私は何となくもぞもぞして落ち着かなくなる。お母さんがそれは、初恋だよって教えてくれたのが、ついこの前。
「あのね!よくまだわかんないんだけど、お母さんにそれは……あ!クッキー焼けた!」
ピピッ…!
オーブングリルの音。
他の子達もその音を聞きつけて、集まる。そして自分たちの抜いた型を見て、火傷しないように手袋で掴むと机に置く。
甘くてバターの香りが、広がる。
すっかり話の途中なのも忘れて、
「冷めたら一緒にラッピングしようね!」
「うん」
ほこほこのクッキーを冷ます間。
洗い物や片付けをした。