第143章 涙色のの答案用紙(7)
ポツポツ。
雨が暗い地面を濡らし始めた頃。
ガチャ……。
門の隣で、じっとひまりを待っていた家康はその音にハッとして振り返る。
開いた扉。
(ひまり!)
淡い期待。
ひまりが出て来たのではと……。そう期待した家康。しかし、そこに立っていたのはひまりじゃなく母親の方だった。
打ち砕かれた期待に、肩をおとしながらも家康は丁寧に頭を下げる。
母親は傘を広げ……
「ごめんね。多分、今日はあの様子だから……出てこないと思うわ」
「……俺が勝手に待ってるだけなんで」
ひまりの母親は、再び門に寄り掛かかる家康に近づき傘の中に。何があったか気にはなったが、野暮なことは聞くつもりはなかった。
娘が心を痛めたのはわかる。
けれど、同じぐらい目の前の家康が苦しんでいたのは、見れば一目瞭然。
母親はそんな二人に歯痒さに苛まれ、暗い表情を浮かべる。
見守るべきだと思いながらも、一向に帰ろうとはしない家康。暫く間を開けた後、吹っ切れたような息を吐き自分も門に寄りかかった。
「小学校の時。夏休み明けの新学期の日……にね。一度だけ、あったのよ」
部屋に閉じこもった日が。
「……え」
母親の言葉に家康は反応する。
「って言っても。今日とは全然違って。普通に元気に帰って来たんだけど……笑顔がね。ちょっと、違った」
光が消えたみたいに見えた。
「小学校の……いつ頃ですか?」
「変な意味で捉えないで頂戴ね。天音ちゃんが、退院して引っ越した日よ」
母親は少し気まずそうな顔をして、言葉を続け……。
「家康君にプロフィール帳を書いて貰ったって、最初は喜んで。でも、大好きなピンク色は天音ちゃんで。私の方は黄色だったんだって……」
その時に、一瞬だけ表情がね。
雲がかって見えたのよ。
(ま…さ……か……)
家康は……固まった。