第143章 涙色のの答案用紙(7)
「わかってるから気にするな。別に急いでない。ただ…俺は、本気だ」
誰にも渡す気はない。
トクンッ。と、胸が静かに鳴る。
私は、小さな声でお礼しか言えなかったけど、やっと顔を上げれば政宗の優しい笑顔がそこにあって……
「なんなら、明日から迎えに来てやる。後で、電話しろ」
「う、ん……」
私は片腕をあげ、歩き出した大きな背中に向かって手を振る。
(明日からのこと……考えないと…)
考えれるのかな……。
幼馴染。
それは絶対に変わらない関係。
でも……元の関係に戻れる自身なんて、この時の私には一ミリもなかった。
今頃、家康は天音ちゃんと……。一瞬、頭に絶対に想像したくない妄想が浮かぶ。そして胸が張り裂けそうになる前に……頭を大きく左右に振って消す。
(政宗の気持ちは、本当に嬉しかった。だから、ちゃんと……)
私は人差し指で唇に触れる。
政宗のぬくもりよりも、想いがそこに残っているきがして……。
優しさと同じぐらい強引なキスだった。
一番仲良い同級生。私の中では政宗はそんな男の子。
ーーおい、自覚なし子。
いつもの口癖が聞こえた気がして、能面みたいに感情を無くしていた私の表情が少しだけ光を取り戻しかけた時だった。
カツカツ、足音が近づいてきて……
「……ひまり。話がしたい」
暗闇の街灯の光が、その姿を照らす。
どうして?
そんな傷ついた顔。
家康がしてるの……?
また、溢れそうになる涙。
(話……なんの……?)
天音ちゃんのこと?
付き合うことになったとか?
これからは登校を別々にしようとか?
(今は何も、聞きたくない…っ)
私は鞄も、唇も、目も。ぎゅっと出来るものに力を入れて、門を開ける。
「ひまり!渡したい物がある!今じゃないと……っ、今しか……!」
両手で耳を塞ぎたくなる。
私が玄関の扉を開く前に、開いて……
「ちょっとひまり!あんた今晩は家康君の家で……!」
はじめてかもしれない。
ただいまも言わずに。
真っ先に部屋に向かったのは。