第143章 涙色のの答案用紙(7)
月が登り始めた帰り道。
家に向かって歩き出す。
政宗には、一人で帰れるからって遠慮したんだけど……夜道は危ないからって結局、送り届けて貰うことになった。
視線はひたすら足元。
私の履いているロファーが動くテンポに合わせて、政宗の靴も動く。
何にも聞かない。
ただ、私が立ち止まれば止まってくれて。車道を歩く時はそれとなく守ってくれる。
政宗の気持ちと優しさは、凄く嬉しい。
でも……
一人でいたいような、
いたくないような。
帰りたいけど、帰りたくない。
今日なんて早く過ぎれば良い、
明日が来なければ良い。
家康に会いたくないのに、
でも何処かで会いたいと思う自分がいる。
天邪鬼な私がいる。
そして、最後に思うのは……
戻りたい。
昨日に?あの花火の夜に?
それとも……
家康のことを好きって気づく前に……?
自分の心なのに、何にも見えない。
そんな非現実な事しか頭に浮かばないまま、家の前まで辿り着いていた。
私は一呼吸をおいて俯いたまま、
「送ってくれてありがとう。……あと、その…まだ……」
こんな曖昧なことしか言えない自分が嫌だった。それでも、こんな中途半端な気持ちで政宗がくれた想いを……甘えるみたいに……すんなり受け取るわけにはいかない。
そんなに抵抗せず、あんなキスして。
今更って思われるからもしれないけど。
(家康でまだいっぱい……)
壊れかけた心。壊れたと思った心。
少し落ち着けば、浮かんでくるのは、家康のことばっかり。考えたくなくて、一生懸命、本当に必死に追い出すのに……
届けれなかった分。
届かなかった分。
伝えれなかった分。
伝えたかった分。
(どうしても、頭から離れてくれない……)
ごめんね。そう、ポツリと呟くと頭に軽い重みが降りてくる。