第141章 涙色の答案用紙(5)※家康様side
甘い花の香り。
いつも隣にあった。
振り返るだけでふわりと、漂い。
左耳を搔き上げる仕草。
その度に触れたくなって。
何度も、拳を握った。
腕を伸ばして、
引き寄せる……。
「ひまり」
唇に触れた瞬間。
俺は……。
(……な、…んで)
気づく。
完全に浮かれていたことに。
そして……
視界に光る金色の髪。
ジャリッ……。
音につられて、首が動く。
夢であって欲しかった。
(っ!!!!!!!)
取り返しがつかない……
後戻りが出来ない……
時間を二度と戻せないことに……
震えた背中を見て、俺は……
気づいて……
頭も呼吸も停止した。
「いっちゃん!」
走りながら、何で白鳥があそこにいたのかよりも……
追いかけながら、
何でひまりを泣かせたのかを、真っ先に考えて……答えが出た瞬間。
バラバラになるかと。
一層のこと……
全部が壊れればいいと思った。
ひまり以外。
全部、消えれば良い。
「ひまり!」
そしたら……
パキッ……。
一番壊したくない、
一番壊れて欲しくない……
ひまりが壊れていた。