第138章 涙色の答案用紙(2)
教室からいそいそ出て行く、
ひまり。
鞄の中から、
一冊の本を取り出して、四角い手の平サイズの何かをポケットに仕舞う家康。
それを静かに見ながら、気づかれないようにある物を背中に隠す天音。
「紅葉見たいなぁー…。政宗、何とかしなさいよ!」
「あのなぁ。俺を花咲じいさんみたいに言うな」
「何、くだらない話してんの?ってか帰らないわけ?」
家康は三人がいる窓辺にくると、開口一番に呆れたような声を出す。そんな家康に、弓乃はニヤニヤ笑い……ちょっと報告待ち?と、含んだようなものの言い方をしてニンマリ。
趣味悪。と、ボソッと嫌味を言いながらも家康の表情は柔らかい。いつもなら、眉間に深いシワを寄せる所だが……
政宗は静かに窓の手摺に肘を預け、校庭を見下ろす。
(こっちも、帰る気なさそうだし)
家康は物静かな体格の良い背中に、これまた静かに目を向ける。
相変わらず、何を考えているかわからない政宗。しかし、口に出さなくとも、好きな女が想いを告げるのは朝の様子と、この前ツーリングを行った時に薄々感じ取っていた。
家康は特に声をかけることもなく、天音に保健室まで案内するからと歩き出す。
「修学旅行の時。折角だから二人っきりにしてラブラブさせてあげたい所だけど……。天音ちゃんの体調も心配だし…。あ!明智先生に同行頼むのはどう!?」
そしたら、少しは二人で自由行動させてあげれるじゃん!我ながら良い案!と得意顔で話す弓乃の隣で、政宗は外の景色眺めたまま……
吹き込んだ風。
「……まだ、わかんねーよ」
カーテンが靡く。
弓乃の耳にも、誰の耳にも……
政宗の声は届かないまま。
消えた。