第137章 涙色の答案用紙(1)
ホームルームが終わった後。
信長は職員室ではなく、ひと気の少ない渡り廊下階段付近に移動する。
「……いるか」
静まり返った場所。
そこには、誰もいないはず。
しかし、信長は壁に背中を預け両手をズボンのポケットにしまい込むと、目を閉じた。
「……まだ、動きはありません。しかし、やはり出現はしました」
「そうか。引き続き調べろ。日付と場所さえ特定できれば、修学旅行ぐらい俺が何とかしてやる」
「……あの手紙が確実に復元出来れば、良いのですが。何しろ、五百年もの年数……」
信長はフッと笑い。
「ならば何故、俺らに宛た手紙は無事なんだ?」
「……あの手紙は後から急いで埋めたのでは……ないかと」
他のは風化されないよう箱に入っていたが、あの手紙だけはそのまま埋めてあったと……男は説明する。
そして、
気配を感じ取った瞬間、男の影は音を一切立てず消えた。
「織田先生、こんな所でどうかされたのですか?」
三成は図書室に本を返しに来たのか、数冊抱きかかえニコニコと笑みを浮かべ、信長に近づく。
(……こいつらには言わず、あの二人には報告しておくか)
何でもない。
信長はそう言って、静かに歩き出す。
三成はふと、階段付近を見渡して誰もいないことを確認。そして、首を傾げ図書室に向かって歩き出そうとした時……
信長は振り返る。
「三成。……図書室は反対だ」
「へ?あ!……教えて下さりありがとうございます……あわわっ」
小学生がランドセルを閉め忘れたお決まりパターンのように、律儀に礼をした途端、本を落とす三成。
弓道部の部長。
来年は三成かと、薄々思っていたが……
(考え直した方が良さそうだな)
信長は、再び歩き出した。