第134章 夏の大三角〜あとがき〜
俺は予備校から帰り、父さんと暫く話をしてから部屋に入る。勉強机に向かい、頬を緩ませながら手紙を書いた。
明日は、新学期。
やばいぐらい楽しみにしてる。
白い封筒を引き出しから取り出して、そこにひまりへの想いを込める。
届くように。
『俺だけのお姫様』
散々悩んだ後。
ただ、一言に想いを込めた。
オルゴールを開いて、中から指輪を取り出す。
ーーゆびわ?……ありがと!
こっそり忍び込んだあの日。
言い伝えごっこして、花で作った指輪をはめ、満面の笑顔を浮かべるひまりを思い出す。
明日、ようやく言える。
あの時から
ずっと、好きだったことを……。
コンコンッ。
「……はい」
「……いっちゃん?ちょっと良いかな?」
俺は赤いハートのシールで封筒を閉じると、立ち上がる。
「何?体調悪いの?」
「ううん……。今、おじさんと話をしていて初日だけは車で送るから、いっちゃんと一緒に先生の所に行くようにって……その報告に」
「わかった。なら、ひまりも一緒に……」
「朝早いからきっと迷惑かかると思う。だから、明日の登校は二人で。ひまりちゃんには、まだ内緒にしておいて欲しい」
白鳥は、驚かせたいからと静かに笑う。俺は頷き、明日に備えて早く寝るようにだけ伝えると扉を閉めた。
(連絡だけ入れとくか……)
白い便箋に赤いハート。
その手紙を鞄の中に仕舞い、ひまりに明日の登校は別々になることだけメールした。
「家康……」
「ひまり……」
同じ時刻。
部屋の窓から二人は夜空を見上げる。
その手には、手紙が握られていた。
この時は……
((早く明日に……))
終わらない夏を……
望んではいなかった。
〜夏の大三角〜(完)