第133章 夏の大三角〜最終章〜(5)
手を伸ばして、ハンカチでそっと拭く。
すると、家康の顔が短い声をあげて一瞬だけ歪んだ気がした。
涙でぼやけて霞んでたから、そんな風に見えたのかもしれない。
「……泣き虫」
「だって…迷惑ばっ、か…り」
「ほんと。遅いから見にきたら変な男に捕まってるし。何で、ちょっと目を離すといつもあぁ、なるわけ?」
ごめんなさい。
ありがとう。
どっちも言いたくて、啜り泣きしながら伝える。すると、ばーか。って、お決まり台詞が返ってきて。
「ばーか。俺は泣き顔じゃなくて、笑ってるのが見たいんだけど」
ーー俺、バカみたいに笑うひまりが見たいんだけど。
あの時と、同じ台詞。
でも、ちょっとだけ違う。
家康はハンカチを私から奪うと、クルッと裏を向けて……
「怪我より、こっちのが痛そう」
だから、泣くな。
「何で…いつも見つけて、くれるの?」
小さい頃から。
野外活動の時も。
謙信さんに迫られた時も。
他にも、もっと、もっと。
「……ひまりがいつも」
ドォーン……
バラバラ…バラバラッ……
目を見開いた瞬間。
余計に溢れた涙。
聞こえなかった。
夜空に突然、花が咲いて。
でも、口の動きで何となくわかって。
『光ってるから』
ーー暗闇の中で、凄く綺麗に光るから……。
(もう、運命の人じゃなくていい)
気持ちも一気に溢れ出す。
家康の広い背中に、手を回して。
(好き………)
その言葉はまだその胸の中だけで、唱える。抱きしめ返してくれて、優しい声で花火見に行こ。って、言ってくれるから。
「おじさん。いつまで、座ってんの」
「邪魔しちゃ悪いと思ってな。それより、このチケット使いな」
おじさんは助けて貰ったお礼だと言って、花火の鑑賞チケットを二枚分。私の手に渡してくれた。