第133章 夏の大三角〜最終章〜(5)
「おっ。もしかして君の彼氏くん?なかなか色男みたいだけど、見た感じひ弱そう〜」
私を拘束している男の人が、後ろからそう耳元で囁く。
「んーんっんんっ!(家康は強いんだから!)」
塞がれて言えないのがもどかしくて、私はジタバタとさっきよりも手足を動かせば、さらに引き寄せられて……身体が密着する。
その瞬間。
「触るなって言ってんの」
聞こえない?
家康の目色が暗闇でもはっきりとわかるぐらい、血走った。
前方を塞ぐ二人の内、一人の胸ぐらに掴みがかり、拳を振り下ろす。
バキッ!!
浴衣で動きにくいのに。
足は使えないから、殆ど拳だけ。
(家康……!凄い怒って…っ)
絶対不利な状況なのに、一人に後ろから羽交い締めにされても素早く反応して、肘で腹部を攻撃。もう一人の腕を捻り上げて、思いっきりコンクリートの上に放り投げた。
(嘘!もう一人……っ!!)
てっきり、二人だけかと思ってたらもう一人いて……
「んんっんっ!(危ない!)」
声にならない言葉で、必死に叫ぶ。
シュッ…!
「……っ!!」
横から現れた男の人の拳が、家康の頬を軽く掠める。けど、家康は咄嗟に避けて半歩後ろに下がり、攻撃をかわすとその男の人は勢いのまま、地面に突っ伏す。
「お巡りさん!あそこです!」
「っ……!くそっ……」
騒ぎに気づいた誰かがお巡りさんを呼んでくれたみたいで…。
男の人は舌打ちをして拘束を解くと、
ドンッ!
すごい力で私の背中を押して……
「あんまり、心配させないでくれる?」
家康の腕の中に届けて、去って行った。
ホッとしたせいかな。
腕の中があったかいからかな……。
「ごめ、ん…ね。い、つ…も…」
ポロポロと溢れる出す、涙粒。
あの時と一緒。
私は泣きながら、
浴衣の胸襟からハンカチを取り出す。
家康のきめ細かい肌に、
入った赤い線……。
引っ掻き傷から薄っすら滲んだ血。