第132章 夏の大三角〜最終章〜(4)
私は震えそうになる手を、
膝の上で固く結ぼうとした時。
手を出すように言われて……
両手を包み込むようにくっ付けて、
胸の前に差し出すと……
そこにオルゴールが。
裏を見るように言われて、
壊さないように気をつけながら、
時計の柱の部分を持って、ひっくり返した。
(何か文字が彫ってある……)
年期が入っていて、薄っすらとしか見えなかったけど……確かにそこには小さな書体で楽譜が書かれ、その曲の題名らしきモノが刻まれていた。
「つつ……じ?」
私が声に出して読む。
花の名前??
すると、おばあさんは
「私の名だよ。あの人の想いがこの、オルゴールの音色に込められていてね。……後から後悔したよ」
言わなくても、
聞かなくても、
何かしらで人の想いは伝わる。
私はそう思っているよ。
おばあさんは、最後に……
「けどねぇ……。時を逃したり、機会を見過ごせば……同じ想いでも届かなくなる時が……届けたくても、届けれない時がくるかもしれないからね」
今を大事にしなさい。
「はい……」
おばあさんの言葉が驚くぐらい、
スッと私の胸の中に入ってくる。
今、私が伝えたいこと。
今の、私しか伝えれないこと。
始まりは、あの一通の手紙。
運命の人、差出人探し。
それに囚われて……
でも、そのお陰で……
見えた「大切な人」
「ひまり!?」
わかんない。
わかんないよ。
何で、ずっと気づかなかったのか本当にわかんない。
「家康……予定変更して良い?」
花火に行きたい。
わかった。
意地悪、天邪鬼。でも、優しい。
「ありがとう!つつじさん!」
「わざわざ浴衣持ってきてくれるなんて、良いお母様達だねぇ」
「色々、下調べしてありましたから」
お母さん同士が
顔を見合わせ、笑う隣で。
「ってか、何で俺まで浴衣……」
家康はちょっと、
不機嫌そうだったけどね。
夜空に咲く、大輪の花。
私達は、人混みに紛れながら海に向かった。