第132章 夏の大三角〜最終章〜(4)
『オルゴールの思い出』
おばあさんは元々、北海道生まれで私ぐらいの歳までは、このすぐ近くに住んでいたと教えてくれた。
「私の幼馴染は……オルゴール職人になる為、あの店で修行していてねぇ。腕を見込まれ、海外に行かないかと誘われていたんだよ」
幼馴染であり初恋の人だったと。
ほんのり頬を染めながら、おばあさんは言って……話を続ける。
誰よりも近い存在で、安心しきって。
ずっと、小さい頃から育ってきたからこそ……いつまでも想いを伝えれず、焦れったい日々を過ごしていたと。
「向こうの気持ちを確かめるのが、怖くてねぇ。今の関係に、ガラスのようにヒビが入ったら……どうしようかと……いつまでも、いつまでも、悩んで」
周りの人達には、いつ祝言を挙げるのかと聞かれるぐらい、仲は良かった。お互い意識はしていたんだけどね。
おばあさんはそう言って目を閉じると、オルゴールをそっと胸に抱く。
「幼馴染の方は、おばあさんに想いを告げたりはしなかったんですか?」
まるで、私と家康みたいな関係にすっかり共感して……
その先が気になって……
おばあさんが、
何故こんなに悲しそうなのか知りたくて……
不躾だと思いながら、私は口に出していた。
「……頑固な人だったよ。無口で、大事なことは一切言わずに」
そして、おばあさんは年頃を迎え数々の縁談を持ちかけられて……嫁ぐことに、なってしまい。
自由な恋愛がまだ難しい時代。
家の事情でどうしても、断れなかったと。
「嫁ぐことが決まった時。幼馴染も、海外に行く決心をしたみたいでねぇ」
「も…しかして、その時にオルゴールを……?」
おばあさんはその問いかけには、答えずに。暫く口を閉ざす。