第131章 夏の大三角〜最終章〜(3)
それから私達はオルゴールの手作り体験。それを作り終わると、私は店に並べられた数ある中から、手の平サイズのオルゴールを二つ購入。
女子中高生に人気がありそうな、可愛い紙袋タイプの物をゆっちゃんと、副部長へのお土産に選んだ。
店を出る頃には、入り口に立っていた蒸気の時計は三時を指していて……
「あ……電話。ちょっと、待ってて」
家康は、少し離れた休憩所みたいな所に移動すると電話を取り出すのが見えた。
私は、時計を見上げる。
そして、そのすぐ側で同じように見上げている着物姿の年配女性。
(あ……この人。昨日の)
ホテルで見たおばあさんと同一人物。
無言で時計を見上げる姿は、やっぱりどこか憂鬱そうで悲しそうに見えて……気づいたら、声を掛けていた。
「素敵ですね、この時計!凄く歴史を感じて……って!ごめんなさい急にっ!」
初対面にも関わらず、つい気軽に話しかけてしまい、私は急いで頭を下げて謝る。
「……ほんとだねぇ。いつまでも、見ていたいよ」
おばあさんの悲しげに見えた表情が一変して、ほんわかと優しい表情に変わった。私は、ホッと胸を撫で下ろして辺りに誰も付き添いらしき人がいないのを確認すると、おひとり旅、ですか?と尋ねた。
「昔、ある人から頂いた大切なオルゴールが壊れてしまったねぇ。修理をお願いしに来たんだよ」
「オルゴール?……もしかして、その手に持ってる物ですか?」
おばあさんは手に握っていたオルゴールを、私に見せてくれる。
隣に立つ時計と良く似ているデザインだった。私がチラッと見比べるように、首を動かす。
「ここで、その人が作ってくれたんだよ。毎日、この曲を聴いて元気を貰ってたから、寂しくてねぇ……」
おばあさんはまた、悲しげに瞼を落とす。私は、少しでも元気になって欲しくて同じホテルに宿泊していること。初めて、北海道に来たこと。