第130章 夏の大三角〜最終章〜(2)
視線の先には、
ソファに腰掛けた一人の老婦。
見た所、七十代前半から後半。
着物を着ているせいか、腰は丸くなく背筋はピンと伸びている。
「何か……悲しそう……」
「そう?普通に見えるけど」
ただ、座ってガラス越しに庭を見ているようにしか俺には見えない。ひまりは、声を掛けようか悩んでいるのかその老婦を静かに見つめ、手をぎゅっと握る。
「ゆっくりしてたら、悪いから。気のせいだって」
「うん……。でも、何か手の中で大事そうに持ってるから、ちょっと気になって」
俺が歩き出すと、それに合わせるようにひまりも足をゆっくり動かす。まだ、気になるのかもう一度だけ振り返ると、それ以上は何も言わなかった。
その後は、男部屋の方に集まり夕飯だけは全員で食べる。
器に描いたような会席料理が運ばれ、大人組は酒を飲みながら仕事の話や、俺達の昔話をして勝手に盛り上がり……
「家康くんは医大行くのよね?いいわねぇ〜成績優秀で顔面偏差値も高いし〜!!」
「どーせ、私はまだ進路も未定ですよーだ!ってか、お母さん!顔面偏差値って言い方は良くないよ!」
「あらぁ〜ひまりちゃんだって〜こんなに可愛くて〜早くお嫁に来てね?」
おばさんと母さんは完全に酔っ払い。
酒も飲んでないのに、顔を赤くするひまりに絡んで、楽しんでる。
で、俺は。
「家康くん!まだ、まだ、まだ待ってくれ!おじさんも色々と心の準備がぁ〜!」
「……落ち着いて下さい。まだ、付き合ってませんから」
「まだ、の部分はちゃんとひまりちゃんに聞こえるように言わないとな?」
意味不明に取り乱すおじさんと、やたらと冷静な父さんに挟まれるとか。