第129章 夏の大三角〜最終章〜(1)
「やっぱり、ちょっと涼しいね!」
上着、着ようかな?
夜にはもっと冷えるだろうから。
「……あんま、変わんない気するけど」
気温も、景色も。
とか、言う割にいつでも羽織れるように、腰にシャツを巻いてる家康。ほんと、天邪鬼なんだから。
「そんな事ないよ!空気も美味しいし!食べ物も美味しいものいっぱいあるし!」
飛行機の中で見ていたガイドブックの写真を思い出して、思わずヨダレが出そうになる。
「結局、それ。……食いしん坊、ひまり」
慌てて誤魔化したつもりが、ちゃんと家康にはバレていて本日二回目。
頭を小突かれた。
でもやっぱり意地悪に笑う姿にも、
ドキドキする自分が居て……
(私の心臓持つかな……///)
いちいち家康の行動一つで、
騒ぐようになった胸を軽く押さえると、
「いっぱい思い出作ろうね!」
私は笑ってみせた。
すると、家康の表情が急に優しくなって……
「ひまり」
名前を呼ばれ、足を止めると……
家康は手を伸ばして、
私の首元にかかる髪をかきあげ……
「ちょっと、薄くなってる」
紅い印が付いている部分。
そこを指先でそっと触れられて……
ピクンッと肩が震える。
「二人っきりになったら、覚悟しなよ」
低いのに甘い砂糖みたいな声で、言われて……
薄くなった印が見えなくなるぐらい、
私の首筋が赤く染まる気がした。
大会後から、一度も消えない印。
お陰で暑い夏。
全然髪が結えなくて、困ったんだから。
一瞬、声に出しそうになったけど……
ちょっと考えてから、そっと胸の中に仕舞う。
「何?文句言いたそうな顔して」
「……内緒!それより、さっきガイドブックに載ってたんだけど!半分に切ったメロンの中に、ソフトクリームが入っててね!」
「やっぱり、食べることしか考えてないし」
まぁ……俺も一緒だけど。
「ん?何か言った?」
家康がボソッと呟いた言葉。
聞き取れなくて、すぐに聞き返す。
なのに、
「内緒……」
そう言って、
もう一度私の首筋に触れる。
翡翠色の瞳が一瞬。
違う色に見えたのは、気のせいかな?