第127章 『熱い視線』
いざとなると人は、「助けて」の一言がなかなか出ない。
(い、えやす……助けて…)
ごぼっ……
やっと出せた時には、泡となって口から吐き出されていた。
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意識を失ったひまりを、水面まで引き上げた時。
「早く上がれ!!」
何でここに船!?
と、家康は目をギョッと開けたが今は一刻の猶予もない。自分の腕の中でぐったりとするひまりに、急いで人工呼吸が必要だ。勿論、医者志望の家康は、冷静にやり方を頭の中で駆け巡らせ、船の上にあがる。
そして甲板にひまりの体を寝かせた。
「ひまり……っ!」
ますば頬を軽く叩き、意識を確かめる。
しかし応答がない。
(お、落ち着け!俺は医者志望だ!ここは冷静に!!まずは、音を確認して……っ!!)
愛する女の緊急事態にパニックを起こしそうになる頭を必死に言い聞かせ、深呼吸をして心を落ち着かせる。
(俺が絶対、助けてあげるから!)
まずは少しでも力を入れれば折れそうな、細い手首を掴み脈を図り……次に呼吸を確認。
(薄っすらしかない!早くしないと!)
低下しかかっている呼吸。
気道を確保し肺に空気を送り込もうと、
ひまりの唇に、自分の唇を重ねようとした時だ。
「俺がする。どけ」
「ここは、保険医の俺が」
「ここは、元部長として俺が……」
痺れを切らした、信長、光秀、秀吉。
いつまでもグズグズしている家康を見て、すかさずひまりを取り囲んだ。
「ちょ!邪魔しないでよ!」
「青餓鬼が、何を言っている」
薄っすらと呼吸があるとは言え、本来は、揉めている暇など一切無い。家康と信長が人工呼吸の権利を巡って、揉み合いをしかかった時……
ちゅう……。
「「なっ!!!」」
「ごほっ、けほっ……あ、れ?」
「大丈夫か?」
ひまりの視界に、政宗の顔が映った。