第127章 『熱い視線』
まさかすぐ隣の立入禁止区域。
信長所有のプライベートビーチに、そんな船体があることを知らないひまり達は、遊泳をまだ楽しんでいた。
三時を過ぎる頃には家族づれが減り、海岸には自然とカップルがいちゃこらする姿が圧倒的に増える。
「結局、良い男。見つからなかったしね」
「私は秀吉先輩さえ居てくれたら……やっぱり、昨日誘っておけば良かった〜」
副部長と弓乃は同時に肩を落とす。
そして……
二人の視線の先に。
「ひまり、もっとこっち来いよ」
「ひまり先輩、一緒に貝殻拾いしませんか?」
「ほら、ドジなんだからちゃんと掴まって」
女子ならば誰しも憧れる、逆ハーレムの光景がそこに。
「でも、不思議と憎めないのよね」
「ひまり、女子受けも良い性格してますからね〜」
そんな二人の耳に飛び込んできた、
「やだぁ〜〜冷たい〜〜」
「つかまえた〜〜」
ラブコメど定番セリフ満載の海岸で戯れるカップルの声。水飛沫を掛け合い、追いかけっこ、熱い抱擁。
ますます二人の表情は曇り、
「「はぁ〜〜……」」
長く重い息が広い海に吸い込まれる。そしてビーチボールを取り合う、家康とひまりの姿に注目。
「あの二人、ようやくまとまりそうね」
「私、何気に政宗だけには忠告しといてあげたんですけどね」
弓乃は、合宿の時にひまりの気持ちが家康に向いていることに気づき……何時迄もガンガンいかず、何故か妙に余裕そうな政宗が気になり、忠告したのだった。
「そう言えば、徳川くんは苗字で呼んでるのに、伊達くんは下の名前で呼ぶのね?」
「そう言われてみれば……私が下の名前で呼ぶの、秀吉先輩とあいつぐらいかも」
弓乃は不思議そうに顔を上げ、照りつける太陽を見上げた。