第125章 『oceanブルーの横顔』(大学生version)
頭上を気持ちよさそうに泳ぐイルカ達。幻想的な光は、水中ドームの世界を照らして……
海の中の世界。
そして二人だけの世界を創り上げてくれた。
家康は開けた扉のすぐ近くにいたみたいで、後ろからそっと私を引き寄せると……
「魔法が解ける前に、五分間。ひまりにあげるから。後の五分は俺に頂戴」
家康の澄んだ声。
360度ガラス張りの水中ドームの中で、跳ね返り広がって……私の全身に届けてくれる。
その回された大きい手に、自分の手を重ね……
「……五分じゃ…足りない…よっ」
「だめ。残りの五分は俺が使うから」
涙声で甘えても、そこだけは譲れないって念を押された。震える唇を一度だけキュッ。と縛れば、透き通った静寂が訪れ私はその一秒でも惜しくなって、口を開く。
「……頑張って…お洒落し、たんだから」
「知ってる」
「少しで、も……大人っぽ、くヒールは、いて……メイク…だって」
「……だから、綺麗だって。朝から何回も言ってる」
間髪入れず迷いなんて一切ない、真っ直ぐな声と言葉が私の中の不安を、あっという間に消し去ってくれる。
(もう。……何でもお見通しみたいに)
透明の床の上で輝く足元の光に誘われ、いじけた子供みたいにカツン…
踵を鳴らすと、足元を泳ぐイルカと目が合う。つぶらなガラス玉みたいな瞳がパチパチ動くのを見て、そこに目薬をさすみたいに雫が落ちた途端。
くるっと私は家康の方に向き、
「紹介したく、ないって……聞いたら!自信失くすに…、きまって……」
ドンッ!
一度だけ、強く家康の胸板を叩く。
こんな駄々こねる自分が嫌。
「背伸びし、て……ばか、みた……っ」
出てくる言葉は、我儘ばっかり。
少し汗ばんだ家康の服。
そこを更に溢れた涙が染み込んで、余計に濡れて……。
探してくれてたんだよね?
館内中。
苦手な人混みかきわけて。
もしかしたら、外まで行ってくれたかもしれない。
もっと、大切なこと他に言わなきゃいけないのに。