第20章 「苺のポッキー(2)家康様編」家康様side
響く弦の音。
射型を取り、息を吸う。
ある事だけ考えて……
ある想いだけ乗せて……
ある笑顔だけを浮かべて……
矢を自然に弓から放つ。
それだけで俺の矢はただ真っ直ぐ、風を切り飛んでいく。
パンッ!
「……お見事ね」
手を叩く音に反応して視線だけ横に向ければ、髪を高く括りあげた副部長が拍手をしていた。
どうも。
まるで何も無かったように接する。
昼休みの出来事は、俺の中で既に消え去った時間。
「徳川君、気づいてる?矢を打つ前、自分がどんな顔しているか?」
「……生憎、見えないんで」
「私はいつも見てた。凛々しくて格好良くて、綺麗で……真っ直ぐな瞳をね」
(そんな、台詞。ひまり以外に言われても)
全然嬉しくないし。
「矢を放つ一瞬……徳川君、笑うのよ」
「……気のせい、だと思うけど」
「早く射止めればいいのに。そしたら……私だって諦めが早くつくし、ね」
「……飛距離、大分あるんで」
幼馴染なんてやってた所為で。
大分ね。
俺は心ん中でそうボヤいて、壁に掛けられた時計を見る。