第125章 『oceanブルーの横顔』(大学生version)
ぶくぶくと泡を立て、念入りに手洗い。
腕時計で時間を確認すると、午後三時。
約束では一時間後、海岸を歩いてゆっくり過ごす予定。
(お天気も良いから、楽しみ!)
手洗い場に映る自分の顔。
自然と微笑む。
体験フロアに戻ろうとした曲がり角。
突如上がった声と、
チラッと視界に見えた光景に反応して。
咄嗟に、
「おっ!!その鞄!!」
出て行っても良いのか悩んで、立ち止まった。
係員って書かれたTシャツを着た男の人。その人が、家康の肩に手を置いて陽気に笑う姿が見えて…
そして、
「家康くーん!」
「やっほー!」
近くに綺麗な女の子二人。
一人はインテリ風の眼鏡を掛けた、知的な印象の大人っぽい子。
もう一人はバッチリメイクで、芸能人みたいな華やかさがある子で……余計に足が石のように重くなる。
「やっぱ、彼女と来てんのか?紹介しろよ!」
その言葉に思わず、ハッとして聞き耳をたてた。
家康が背中に掛けた私の鞄をじろじろ見て、男の人はぐるりと辺りを見渡す。
「えぇーっ!家康くん彼女いるの?」
「残念。狙ってたのに〜」
ズキリと軋む胸。
私が知らない人達。
多分、家康が通う医大の友達……。
「チケット手配してやる代わりに、誰と行くか教えろってしつこく聞いたら、やっと吐きやがって。で?何処にいるんだ?」
その声だけはよく通るのに、
家康の声は全然聞こえなくて……
ただ、はっきり聞き取れたのは……
「紹介したくない」
ドンッ!
くるりと背を向けた時、
誰かの肩にぶつかって……
慣れないヒールで、足元がよろけて……
カシャン……
携帯が床に落ちる。
背中に冷たい壁が、広がった。
「わ、悪りぃ!!?」
「大丈夫だった!?」
差し出された携帯。
「ご、ごめんなさい…っ」
同世代ぐらいの男性二人。私は慌てて受け取り、自分で体勢を立て直す。お礼を言って頭を下げると、その場を離れた。