第125章 『oceanブルーの横顔』(大学生version)
「………綺麗」
「……やばいぐらいね」
「ふふっ!くっ付き過ぎって、今日は怒らないんだね?」
水槽の中に映る私が、クスクスと笑いながら視線を横に逸らして尋ねる。すると、ガラス越しに映る家康と、すぐに目が合って……
一瞬ドキッと胸が鳴る。
「近くで見たい気持ちはわかるから」
「え……」
今の、魚の話だよね?
ガラスに映る私と家康。
見つめ合ったまま、距離が近づいて……
「いい加減、自覚して」
「???」
「……さっきから、周りにいる男がひまりのことずっと見てるの」
「も、もしかして子供っぽいことしてるから?」
ガラス越しじゃなくて、顔を横に向けて直接問い掛けようとした時。
「ねぇ。あの人、格好良くない?」
「ほんとだね。超イケメン」
周りにいた同世代ぐらいの女の子達の会話が、耳に届く。ガラス越しに見渡せば、ちらちらと通りすがりに見ている女の人。恋人が隣にいるのにも関わらず、家康の方をじっーと見つめてる人までいる。
急に不安になって、
繋がれた手にギュッと力を入れる。
オーシャンブルーの光に照らされた、
家康の横顔が……
急に見れなくなった。
「ごめんね……。大学生にもなって、子供っぽくて……彼女には見えないよね」
ガラスに映る私達の姿が不釣あいに見えて……私は、顔を隠すように三つ葉のヘアピンに触れる。すると、隣から溜息が聞こえてきて……胸がズキッと痛んだ。
すると、
「こいつらまで虜にするぐらい、綺麗なのに。……何言ってんの?」
呆れた声じゃなくて、
拗ねたような声が真隣から、降ってきて。
ほら。
家康はそう言って、私の顔の前に集まった熱帯魚を指差した。
「お陰でさっきから、俺。魚にまで嫉妬してるんだけど」
その少しふて腐れた横顔。高校生の頃の家康が一瞬だけ浮かぶ。でも、またすぐに男の子から男の人の表情に戻って、私の視線を水槽から奪う。
そして横顔がスッと正面に向いて……
一瞬だけ、人目を盗むように触れた唇。
背伸びした、白いパンプス。
オーシャンブルーの照明を吸い込んで、ガラスの靴みたいに光っていたら……
ちょっと嬉しいかな?