第122章 夏の大三角(23)大会編
六時を過ぎを刻む時計。
夕立雨のせいで、待合室は薄暗い。
そんな中……
「ご褒美。ちょっとは、期待してたんだけど」
目の前のお姫様は大きな瞳の中に、明らかに今までとは違う光を浮かべて、俺を見上げる。
最初は、本当にちょっと。
ーー……私からのキスは家康にとって、ご褒美になる?
あんなこと言うから。
もしかしたら、真っ直ぐで素直なひまりなら……って淡い期待した程度。
けど、今は違う。
「今は期待以上に、期待。……してる」
「家康……」
指で触れているひまりの下唇が、
俺の名前を呼ぶ為に動く。
その声が耳に届いた瞬間。
ゾクッとした痺れが走る。
(ほんと、何処まで焦らす気?)
そんな溶けかけみたいに、
潤んだ顔して……
今までと違う蕩けるような、
甘い声を出して……
その上まだ、
振り回して、乱して、
熱くさせるとか。
ーー夏休みの宿題。……出来たの。
(凄い爆弾ばっか急に落として……)
ひまりみたいに鈍くない俺の頭は、それが何を意味してるのかを理解する。
まだ完全に、
俺の気持ちが届いてないひまりは……
今、どれぐらい浮きだって。
やばいぐらい嬉しくて。
気が狂いそうか……知らない。
(結局、俺ばっかりだし)
だから、つい意地悪して
焦らしたくなる。
まだ足りない。
欲がまみれて……
俺は、自覚したお姫様が……
もっと欲しくなる。
(早く捕まえたい)
その癖、ひまりから寄ってきて欲しいと願う自分がいつも何処かで付き纏って……
「ひまり……」
まだ、言わせて貰えない言葉を飲んで、
その名前に愛しさを込める。
柔らかくて赤い果実みたいな唇。
指で焦らして、ひまりの意識をそこ一点に集中させ……
煽るように片脚を……
ギシッ……
ソファに乗せた。
「……目、閉じてくれる?」