第121章 夏の大三角(22)大会編
喜ぶ暇もなく病院に来たから、せめてちょっとでも実感して欲しくて、そう言ったのに……
「……鈍感」
ありがと。って柔らかい笑顔を想像してた私の予想を打ち砕くように、全然違う反応が返ってくる。
家康はただ、重たい息を吐いて項垂れながら、肩の力をストンと落すと……
「やっぱり、お守りじゃなくて胸を射止めとくべきだったかも」
下向いてボソッと呟く声は、私の耳には届かなくて……
ふて腐れた態度でブツブツ何か言って、全然私のこと見てくれないから……
「嬉しくないの……?」
そう尋ねる。
憧れの秀吉先輩に、やっと追いついたのに。もしかしたら、追い越せたかもしれないのに。誰にも見せなかっただけで、人一倍努力して……。
手にした優勝。
大規模な秋季大会の出場権。
上手く伝えられなかったかもしれない。でも、思ってることを全部話し終えた時。
家康は掴んでいた私の手首を、
ゆっくりと離して……
そして……
待合室に並ぶソファに、
私の身体がドサっと座り込む。
え……。
家康は背凭れに片腕を置いて……
戸惑う私を見下ろした。
待合室の針時計。
時間を急かすように、
チクタク動いてたのが、
「……全部。ひまりの、所為」
ピタッと止まったみたいに……
家康の声に掻き消される。
「優勝は確かに嬉しいけど。それ以上に………」
赤みが消えた、澄んだ翡翠の瞳。
その中に映った私の顔……
一時停止したみたいに、止まって…
時間の存在。
そのものさえ、私は忘れそうになる。
「コレ……守りたかったから」
唇に走る指の感触。
私の所為……。
「私の為に……?」
家康の言葉。
時々、天邪鬼になるから。
「……守りたいんだし。俺が勝手に」
強い感情を表す声と。
真っ直ぐな視線に。
ぎゅうぎゅうに詰まった胸が……
もっと、いっぱい詰まって……
ザァッー……。
激しさを増した雨音。
「ご褒美。ちょっとは、期待してたんだけど」
ーーコレ、期待してる。
家康に触れられる度に、
見えた自分の気持ち。
今度は私が……
家康に触れたら……
家康の心が見えるかもしれない。