第121章 夏の大三角(22)大会編
病院の匂いがツンとする。
ぐすぐすになった鼻。それを敏感に吸い込んで、刺激されたみたい痛い。
きっと今の私。
ひどい顔してる。
でも、一つずつ言って……
一つずつ聞きたい。
真正面から見れるようになったから。
それに、ちゃんと見たいから……
顔を持ち上げる。
「夏休みの宿題。……出来たの」
ちゃんと言おうと思っても、
どうしても小さくなる声。
でも、家康はそれだけで伝わって。
一瞬で色んな表情を見せてくれた。
驚いて見開く瞳。
少し眉を下げて、赤く染まる目元。
フッて息吐いて、柔らかく笑って……
左耳に付いた三つ葉のヘアピンに、
優しく触れる。
ドキドキなんて、通り越して……
(もっと、触れて欲しくなる)
その想いが通じたみたいに……
ヘアピンに触れた手が……
そのまま下に滑り落ちて……
私の頬に移動した途端。
「ひまり……。それ、本当?」
壊れそうなぐらい胸が震える。
大切な物に触れるみたいな……
家康の声と手つき。私は、少し間を空けてからコクリと頷く。
「なら、答え合わせしないと」
約束したから。
さっきピクンと跳ねた肩が、その言葉を聞いて今度はビクッと上にあがる。
ーーひまりが、その宿題出来たら。俺の好きな子、誰か教えてあげる。
(そうだった……)
すっかり肝心なこと。忘れてた。
それが私達の答え合わせ。
つい、向き合うことばっかり考えて。
「……先に言わせて」
思考がすっかり止まった私。
心づく頃には視界が真っ白に変わって。それが家康の着ている胴着なのがわかるのと同時に、抱き締められていることに気がついた。
「俺の好きな子は……むっ!」
「だ、だめーーっ!」
私は咄嗟に両腕を動かして、家康の口を塞ぐ。さっきまで泣いてたのが嘘みたいに、一変して騒ぎはじめる。
「ま、待って!まだ、言わないで……っ!」
「んんむっん!(何で!)」
「だって!心の準備が……っ!」
「〜〜〜っ!?(はぁ!?)」
私を選んでくれた戦国武将じゃなくても、例え運命の人じゃなくても違っても……構わない。
でも、私の気持ちと
家康の気持ちは、違うかもしれない。