第121章 夏の大三角(22)大会編
四月(卯の花月)
ーーな……んで……。
二人で食べた、
苺のポッキーは甘酸っぱくて。
好きな子いるのに、
何で私にキスするのかがわからなくて。
でも、嫌じゃない……。
そう思う、自分の気持ちが……
一番、わからなかった。
五月(月見ず月)
ーーちゃんと解ってるよ……。
家康が選んだ恋の和歌。
こんなに好きな子がいるのに、
それでも私を幼馴染として
大切にしてくれる。側に居てくれる。
そう思ったら……
嬉しいのと同じぐらい、
胸が痛くて、騒ついて、苦しくなって。
六月(風待ち月)
ーー上手く言えないんだけど。家康に触れられると、どんどん色んな事がわからなくなって。
懐かしい想い出を再現するみたいに、
白詰草の花冠を被って、約束した。
昔みたいに一日中一緒に居たくて。
家康から貰った、夏休みの宿題。
ちゃんと、自分の気持ち向き合う。
……って、この時に決めた。
七月(合宿)
ーー家康の初恋。いつだった……?
タイムカプセルを開けてしまった。
ううん。開けたくなって。
どうしても、逢いたくて。
淡くても、ぼんやりでも、恋の意味がまだわかっていなくても。
それでも……
家康が好きだった頃の私に。
どうしても、逢いたかった。
今、私は「恋」をしていますか?
今の自分の気持ちを、
確かめる為に開けたのに……
逆に質問されるなんて。
思わず、笑いそうになっちゃった。
そして、八月の今日。
夏休みの宿題も……。
質問の返事も……。
もう……書けた。
だけど、
だからこそ……
チクタク……。
病院の時計が刻む……
「……もう、六時前。行かなきゃ」
私の呟いた声。
自分でも驚くぐらい、
悲しい音に聴こえて……
確認するみたいに、跳ね返り……
誰もいない、待合室に響く。
先生の所に行く時間。
まだ開かない処置室の扉。
私は、まるで魔法が解ける前の
シンデレラみたいに……
立ち上がって、袴の裾を揺らした。