第121章 夏の大三角(22)大会編
待合室。
真っ白い壁。
病院の特徴的なツンとした匂い。
五人掛けぐらいのソファ。
それがズラリと数列並んだ前で、
立ち尽くす。
私は濡れた袴で座るのを一瞬、
躊躇い軽く触れる。
すると、びしょ濡れになった裾とは違い、後ろ側は特に雨が染み込んだ感じは手の感触にはなくて、その一番前に腰掛けた。
(……ここに来るの、久しぶり)
普段から、元気だけが取り柄の私。
風邪を引く程度なら、薬を飲めば次の日には治るから、病院に来ることもなくて……。
記憶の中で最後に来たのは、
九月一日のあの日。
はぁ……。
程良い柔らかさのソファの背凭れ。
身体をほんの少しだけ横に傾け、
泣き腫らした瞼を落とす。
ぎゅうぎゅうに詰まった胸。
気づかない内に、
どんどん膨らんでいた。
いつから?
いつからなんだろう。
キラキラ眩しく見えたあの頃?
一歩前を歩く
背中を追いかけていた、頃?
肩を並べて
横顔を見るようになった、頃?
ドキドキして急に見れなくなった頃?
それとも……
真っ直ぐに見たいと思った……
今日……?
もしかしたら、気付く前からで……
やっと、気付いただけで……
気付く前も、
気づこうとしている間も、
気付いた今も。
ずっと前から、私は……
いつも、家康を見てた。
『大切な幼馴染』
その言葉に、鍵を掛けて。
その居心地の良さに、
甘えてばっかりで……
自分の気持ち。
少しも……
見ようとしてなくて……