第120章 夏の大三角(21)大会編
一心に注がれる視線。
まさに「全身全霊」からだと心の全て。
その透き通るように儚げで……
弓を構え佇む家康に、誰もが身を震わせた。
薄っすら開いてた翡翠の瞳が、再び閉じた時。
ひまりは、我が身を抱き締めるように両腕を組み、心の奥底から湧き上がる想いごと抱き締めた。伝う涙を拭わず、強い瞬きを一度でぎゅっと押し出し……ボヤけ霞む視界を晴れさせ、家康の全てを見届ける。
流れるような動作で、弓を引き分け……
無心になる一瞬。
家康の心は逆に溢れた。
そして
勝手に、無意識に
ふと気づけばひまりを
いつも、見ているように。
自然と離れ……
視線のように……
矢は真っ直ぐに飛んだ……
広げていた手を腰に戻し、
一礼して観客席に背を向ける家康。
「……っ!」
ひまりは言葉が出なかった。代わりに涙が止まらず、その場にストンと静かに座り込む。瞳から流れるモノは悲しいとか苦しいとか辛い雫じゃない。想いが湧き出て溢れたモノ。
近くにある筈の的には、一切目を向けてない。矢を放つ前も後も、家康を見ていた……見ていたからこそ確信出来たのだ……。
射位から退場するのを目で追って、
ようやく観客席にいた者は気づく。
的のど真ん中を射抜いた矢。
そして
「勝者!……徳川家康!」
大歓声沸き立ち。
鳴り止まない拍手。
そんな中……
ひまりは震える脚を必死に立ち上がらせ、信長と共に出て行く背中を無我夢中で追い掛けた。
「ひまり!ちょっと!まだ表彰式が……っ」
途中で会った弓乃。
ひまりは、ぽろぽろと涙を横に落とす。
「正面から見ると。自分の気持ちが良く見えたでしょ?」
副部長の言葉に、今度はコクコクと頷いて足元を濡らした。