第120章 夏の大三角(21)大会編
かなりの長期戦となり、時間の都合上と二人の体力負担を心配した運営側が、特別ルールを設けた。
特別と言っても、
至ってシンプルな方法。
一つの的に順に矢を放ち、中心に近い方が勝者。その為、的は直径三十六センチの的に細い線で円心円を多数描いた「線的」が使用される。
静まり返っていた会場がそのルールを聞き、流石にどよめいた。そして、先手となった謙信が的の前に移動し、弓構えをすると再び沈黙が訪れ……
パァンッ!!
力強い的音。
そして矢は、ど真ん中から数センチ離れた左端を中てる。
「やばいな……。今の家康には不利だ」
斜め後ろに座る政宗は、家康が目を閉じているのを知っていた。軽く額を押さえ、独り言のように呟いたが……
「的中さえ、ほぼ奇跡みたいな状況だったからな。また、更に移動して感覚も掴めないままだとなると」
左隣に座る幸村が返答する。謙信は自分達の部長だ。勿論、優勝はして欲しいとは願っていたが、かつて親友だった家康がこれほど粘る理由を作ったのは、他ならぬ自分。
二人の戦いの戦利品はひまりからのキス。
その場しのぎで思い付いたとは言え、家康の想いを知っているからこそ、居た堪れず申し訳なさそうに片眉を下げた。
家康のほぼ真後ろに正座する秀吉は、緊迫した雰囲気をひしひしと肌に感じ、固く口を閉ざす。
自分の後継者に、引退後の部長を家康に任せたいと信長には既に伝えていた。
今の戦いぶり。
それを見て、改めて家康しかいないと。
心に打つ。
三成は眼鏡のツル端を静かに上にあげ、
移動を始めた家康の背中をただ、無心で追う。
ひまりの視線先を追うように……。