第120章 夏の大三角(21)大会編
だだっ広い会場。
観客席数は約500席。
その席が全て埋まり、
尚且つ立ち見までする者の姿……
そんな会場の中が、交互に矢を放ち的中させ両者一歩も譲らない戦いに、魅力され感動し、呆然とした。
目を閉じていても、的中を続ける家康。その番えた十本目の矢が、的音を奏でた時。本部席から見守っていた信長が、自分しか聞き取れないぐらいの、小声で口を開いた。
「まるで、弓と一体化してるようだな」
「……弓が家康自身。矢がひまりに向けた想いと、でも例えましょうか」
しかし、その言葉を取りこぼすこと無く耳で拾う光秀の表情は、固く真剣みを帯びる。
「フッ。五百年の時を越える想いには、まだまだ届かぬようだがな」
「……しかし、ここ最近。間違いなくひまりは覚醒を始めている」
戦国姫に確実に近づきつつある。それは、光秀だけでなく信長も気づいていた。
「まだ足りぬ。やはり、俺が覚醒させてやらねば、な?」
顎を微かに動かし唇の端を釣り上げて笑う信長の隣で、春日山高校の顧問、信玄は二人の会話に加わる。
「そっちは天女のような姫がいるようだな。弓道部の強さの秘訣は、それか?」
「あぁ?俺の指導能力がないとでも、遠回しに言いたいのか?」
実は、不仲の二人。
学生時代、今の家康と謙信のように弓道部のエースとして大会で顔合わせ、優勝争いを繰り広げていたのだ。
静かに睨み合う二人に挟まれ、
「どうやら、勝負が付きそうだ」
光秀はポツリとそう呟いた。