第120章 夏の大三角(21)大会編
俺は、諦めない。
ちゃんと届くまで。
瞼の裏に浮かぶひまり。
怒って膨れて、眩しいぐらい笑って。
泣いて、バカみたいにはしゃぐ姿。
それを見落とさないように、
しっかりと弓を握る。
個人戦が始まる前、
俺はひまりにお守りを預けた。
ーー何で?もしかして……迷惑だった?
勝手に勘違いして。
あんまり、悲しそうな顔するから。
そんな顔して欲しくなくて、戦利品が持ってる方が、効果ありそうとか。
……わざと意地悪を言った。
冗談なのに……
その言い方は嫌とか、可愛い顔して拗ねるから。ただ持って欲しいだけって、正直に言ったら……
ーーコレ持って見てるね。家康の優勝を願掛けして、ひと針ひと針想いを込めた……お守りだから。
静寂の中___
俺は固まったように停止する。
真面に見えない目を、閉じて。
息を吸って止める。
離れてたし
こんな目で
殆ど見える筈ない……
ボヤける視界の中……
でも、確かに
ひまりが見えた……。
この会場に来てから、
お守り持って祈る姿が。
ほんと重症。
長い年月、ひまりばっかり見て……
開けようが、塞ごうが……
見えるとか。
矢を離す一瞬。
俺の口が微かに動く。
「ひまり」
息みたいな声音で……
無意識に名前を呼ぶ……。
余韻を残しながら
自然に口元が緩み
空気を切り裂きながら、飛ぶ……
けど、まだ乗せ切れない……
俺の想いは……
そんな、軽いものじゃないから……
だから今日は……
ひまりの心じゃなくて、
胸の前で持つ、お守りに届くように。