第120章 夏の大三角(21)大会編
まだ、泣いちゃだめ。
ちゃんと見届けないと。
震え出す手。
家康から預かったお守りと、
家康がくれた三つ葉のヘアピン。
それを落とさないように、
しっかりと手を握る。
個人戦が始まる少し前に、
家康は私にこのお守りを預けに来た。
ーーひまりが、俺の分持ってて。
何で?って聞いたら。
その方が御利益あるからって。
戦利品が持ってる方が効果ありそうとか。
……意地悪なこと言うから。
私が……
ーー戦利品って言い方はやだよ!
って、拗ねたら……
ーー……嘘。ただ、持ってて欲しいだけ。俺の試合中、ずっと握ってて。
胸の前で、ずっと……。
静まり返った会場。
家康は静止したまま。
瞼も落としたまま。
呼吸さえも止めたまま。
離れていて
そこまで
見えるはずないのに……
わかるはずないのに……
不思議だね。
ちゃんと、見える……。
この会場に来てから、
家康しか見てなくて。
ううん。
ずっと見てきたから……
今まで、ずっと見てたから……
見えるんだね。
背中を見た予選。
横顔を見た混合戦。
「ひまり」
だからかな……
名前を呼ばれた気がしたのは……。
正面から見た家康。
空気を切り裂く弦音が鳴って……
それから……
真正面に……
私の胸に……
……高らかに響いた。
握り締めたお守り。
まるで矢に射抜かれたみたいに……
手から落ちて……
その上に涙が……
ポタリと一雫、染み込む。