第119章 夏の大三角(20)大会編
的が変わった一本目。
秀吉の矢は……
的に命中することなく、後ろに突き刺さった。先ほどの的であれば確実に、射抜いていただろう。
的が小さくなることが、如何に難易度を上げているのかが、わかる。
一番の優勝候補が敗退。会場に居た者は一瞬、どよめき声を上げそうになる。しかし、グッと唾を飲み込み、堪えた。
秀吉は一礼し、後ろに下がると後ろに控えていた信長にも頭を下げる。そして軽く笑みを浮かべ、世代交代を見守るつもりで、家康の背中を見守る。
だからこそ、気づかなかったのだ。
家康の目が閉じていることに。
緊張感と静寂の中。
その二つが会場を満たしていたと言っても、過言ではない。会場に居る全ての視線が交錯する先に……
射位に佇み、弓を構える家康。
圧倒的な存在感。
調和、透明、純粋……
そんな澄み切った空気を漂わせ、
見る者の心を奪っていた。
淡黄色の光。
その髪色の頭上に、
矢を番えた弓が持ち上がる。
左腕が的方向へ少し押し出され、
引きあがる右肘。
両腕が左右均等に開かれ、
矢が引きしぼられる。
そのまま静止し、微動だしない。
呼吸も視線も、胸の鼓動も止まってしまうかと思えるぐらい……静寂に包まれた。
その姿を、
涙を堪え……
ひまりは、見つめた。