第119章 夏の大三角(20)大会編
去年、秀吉に決勝戦で敗れ、本人は至って平然とした態度をしていたが……悔しさを口には出さなくても、あれから更に練習に励む姿を、一番近くで見ていた。
だからこそ、二つの感情が交錯する。
ーーひまりは、俺だけ見てれば良い。
ーー……明日。絶対、勝つから。
(私の為なら今すぐやめて欲しい。けど、優勝の為なら頑張って欲しい……)
どんな気持ちで、弓を構えているのか……
特別観覧席と言えど、射場から約二十メール離れた場所にいるひまりには動きや、状況は掴めても、そこから表情を完全に見るのは困難だった。
そしてもう一人、複雑な感情を抱いていたのは三成だ。
矢を番えた手が、一旦止まる。
そして視線を的ではなく、特別観覧席に佇むひまりに向けた。
胸の前で手を組み、一点を見つめる姿。その視線が終始、自分ではなく家康に向けられているのが、その祈るような仕草から伝わり……
(私の番でも、奪えないとは……)
渦巻く激しい感情が突き抜けていた。
それが動揺となり、身体にまで影響を及ぼす。
その焦りが引分けの会を狂わせ、普段より早く離してしまい……
シュッ…!
三成の矢は的から外れた。
残り三人となった途端。
運営側の判断で、
的が八寸的に変更となり……
ここから急展開に進んでいく。