第119章 夏の大三角(20)大会編
ひまりが会場に辿り着いた頃。
決勝戦は一人減り、四人が射場に立つ。幸村は逃げた男達を捕まえ、本部に連絡して家康に危害を加えた同校の選手を退場させようとしたが……既にその選手は一本目から矢を外し敗退した後だった。
そして、仕切り直しになり。
右端から
秀吉、家康、三成、謙信に立ち並ぶ。
決勝戦も基本的には的中制だが、優勝者が決まるまでは射詰競射方式。
(※各選手が一矢ずつ行射していき、外れるまで順に続け、最も連続して的中させた者が優勝)
一度でも外せば脱落。
しかし、強者揃いになればかなりの長期戦になる可能性高い。もはや集中力、プレッシャー、体力勝負だ。
それでも勝者が決まらなければ、今度は的の大きさが変更され、八寸的で行われる。直径が小さい為、的中率が愕然と下がることになる。
試合は進み、誰一人外すことなく既に、的には四本ずつ矢が命中。
ひまりは思案顔を浮かべる。
矢を取りに行く前に、必ず家康が目頭を押さえるのが見え、不安が募った。
家康の放った矢は、少しずつ中心部から逸れ……的の端ギリギリに中る。あと、数ミリでもズレれば矢は的から外れる。
(もう無理しないで、お願い……っ)
ひまりは更に手を握り、塞ぎたくなる瞼を必死に持ち上げ祈る。そう、叫びたくて堪らなかったが、意を反するように……静まり返った会場。
心中を飲み込むしかなかった。
家康が他校生から殺虫剤を噴射され、視界がほぼ霞んでいる状況の中、それでも出場していると弓乃から聞き……
一刻も早く棄権して、病院に行って欲しい。そう願ったが……。
(……やめて欲しい。でも、頑張って欲しい)
複雑な想いを抱えていた。
努力は決して人には、見せない家康。
しかし、見せないだけで人一倍努力をしているのをひまりは知っている。