第119章 夏の大三角(20)大会編
隣の会場に繋がる、渡り通路。
トンネルみたいに長い、一本道。
袴を足首が見えるぐらいまで
持ち上げて走って、走って……。
(間に合って……っ)
降り出した雨音さえ、
会場の声さえ耳に届かない。
乱れた呼吸を急ぎで整えて、
特別観覧席の扉の前に立つ係りの人に、私は声をかける。
すると無線で何かを確認して、入れ替わりまで待って下さいと足止めされ、その場で足踏みして待つ。
(絶対、無理してる……っ)
副部長は決勝戦で、敗退してしまった。
皆んなの応援に早く行かないと。
そう思っても、肩を落とす副部長の側から離れることが出来なくて……
足が動かなくて……
ただ時間だけが流れるように、
過ぎて……
私はずっと口を閉じたまま立ち尽くしていた。
どう声を掛けたらいいのか
ずっと、悩んで……
そしたら……
隣の会場の様子を
見に行っていたゆっちゃんが
戻って、早々…
蒼白な顔で……
「徳川が……っ!!」
「真っ正面から、しっかり見てきなさい!!」
震える私の背中を、押してくれた。
三つ葉のヘアピンを握りしめる。
(早く……っ!)
あの日、
このヘアピンを見に行かなかったら…
あの日、
久々に幸に会って浮かれて、のこのこ買い物なんかに着いて行かなかったら…
後悔が嵐のように、襲いかかる。
ーーならば、大会の戦利品になって貰う。
(私の所為で……っ)
ーー幼馴染とか関係ない。
(小さい頃からずっと一緒で)
ーーひまりが嫌がってたら、放っておけない。
(いつも、守ってくれて)
ーー俺が絶対に勝つ。そしたら、無理にしなくて良いから。
(無理してるのは、
いっつも家康の方なのに……っ)
あの時、謙信さんにキスされそうになって、咄嗟に拒んで……
私は……心の中で……
ーーやだよ……っ。
ーーーー以外は。
頭に浮かんだのは……
『家康、以外は』
家康の顔だったのに。
『大切な幼馴染』
その言葉がずっと、鍵を掛けていた。
「どうぞ、今なら入場可能です」
関係者の人が、扉を開ける。
私は、その中に飛び込んだ。