第119章 夏の大三角(20)大会編
何時迄も来ないから。
一目みたいとか。
笑顔がみたいとか。
昨日も来た会場で迷子になって、
まさかうろうろしてるとか。
三成と、何かあったとか。
ほんと心配ばっかさせて。
どうすんの?
俺の心、無防備に出来るの……
ひまりだけ。
決勝戦前、休憩時間___
油断した。
「調子乗りやがって!!」
「……っ!」
羽交い締めされた身体。
咄嗟に体を前に倒し、そのまま後頭部で思いっきり顔面を殴りつける。
相手が怯んだ隙に、
力任せに振り切り……
「お前ら……っ!何やってんだよ!」
走り去る数人の足音。
それを追う幸村の声。
転がるスプレー缶。
頭髪系か制汗系のヤツなら、まだマシ。
殺虫剤系は、厄介。
手洗い場の蛇口のコックを一気に捻った。
降り出した雨音に同調して……
ザァッー………
(く、そ……っ)
ダンッ!!
力任せに殴った壁。
「決勝戦を始めます…選手の方は…」
流れた館内放送。
「おい!家康!……っ!」
政宗が焦るとか、珍しい。
「……今すぐ、病院に行け」
明智先生に、大丈夫だと伝え。
「……その目で何が見える」
織田先生に、
「ひまりが見える」
そう、答えた。
「勝負あったな」
今の俺の赤い目とはまるで、正反対。
氷みたいな冷ややかな目に、
「俺は、負けない」
そう、はっきりと告げる。
心配そうに眉を下げる秀吉先輩にも。
さっきの試合で同数、同一位になって決勝戦出場を手にした割に……浮かない顔して、それでも闘争心は出してる三成にも。
あと、
「あんたの先輩。負けた腹いせに、汚い手しか使えないワケ?」
さっき逃げた高校の、後輩にも。
本来、四人を予定していた決勝戦。
射場に入場したのは五人。
俺は三歩進み、
霞む視界。
一度、閉じて目頭を押さえ……
ゆっくり開き……
ひまりの姿を、想い浮かべた。