第118章 夏の大三角(19)大会編
三歩進み、足踏みをして
足を自分の身長半分に開く。
顔を的に向けて、立ち位置の確認。
そうすると会場は静まり返り、
大きな声を出せるのは、審判の人と的中させた時だけ「よし!」の発生が許されるだけ。
落胆した声は後に続く人に影響しないように、厳禁。
(そう言えば……)
私はふと思い、すぐ前にいる家康の横顔を見る。
(大会だと声出したりするのかな?)
今大会が初出場の私は、こんな間近で家康の戦う姿を見た事がない。試合中はいつも観客席からで……
矢を放った後はつい的に視線が行って、その後の残心(矢が放たれたから後の姿勢)は、ちゃんと見たことがない気がする。
はじめの合図。
家康が弓を持つと会場は息を殺したように、
静寂に包まれ……
床がギシギシと軋む音だけが響く。
すうっと構えた瞬間、
会場全体の呼吸が止まって……
しなやかさ……
ずば抜けた存在感……
そんなの前から、
わかってるのに……
(………っ)
何故か、私まで緊張して……
ドキドキする。
張り詰めらた弦が勢いよく弾かれ、矢が的を中ったその時、力強いパァーン!という音が静けさを打ち破った。
(凄い……音が響く……)
けど、私は音だけで的中したのを確信して、家康の残心を見逃さないように、目を凝らす。
家康は、止めていた息を……
ゆっくり吐き出すと……
よし!
でもなく……
だからって
無言でもなくて……
視線は的に真っ直ぐ向けたまま……
声よりも息に近い……
細く澄んだ音のように
唇が微かに動いて……
ひまり
私の名前を呼んだ。
胸に突きあがる熱い感情。
苦しいぐらいドキドキして、
家康に続くように……
シャンッ……
弦音が鳴って……
矢が飛ぶ。
パァーン!!
「……お見事」
知らない間に鍵を掛けて、
未来に託した私の心。
一度開けたら、もう後は……
溢れ出して……
真っ直ぐに向かうだけだった。