第117章 夏の大三角(18)大会編
いつも助けてくれるのは、
決まってて……。
後ろに引かれた身体。
謙信さんの顔が遠ざかるのを、
スローモーションのように、
見送りながら……。
(家康……)
その肩越しに見えた姿。
少し離れた場所。
キョロキョロ首を動かす度に揺れる
猫っ毛の髪。
そして視線に気づいたのか、私達の方に焦点を向けた途端。
ギョッとした目で私を……ううん。
「ひまり先輩を、困らせないで下さい」
助けてくれた、
三成くんを見ていた。
「誰だ?お前は?」
「石田三成と申します。ひまり先輩の……後輩です」
語尾の部分だけ、弱々しい声音で答えた三成くんは、お見知り置きを。そう、丁寧に謙信さんに挨拶を交わした後。スッと私の身体から手を離した。
すると幸が何処からともなく現れて、
「悪い!徳川を呼びに行っててな!」
顔の前で片手をかざすようにして私に謝ると、謙信さんを強引に引っ張り、春日山高校の人が集合している場所へと二人は姿を消す。
謙信さんはまだ何か言いたげに、頻りに口を動かしていたけど、私の耳には届かなくて……
「……あ、りがとう」
正面を向いたままだけど、まずは三成くんに助けて貰った、お礼を伝える。
「いえ、お困りのようでしたので」
「ひまり!!」
私の名前を呼びながら、こっちに向かって走り寄ってくる家康。それを視界の先に捉え、無意識に足は動いていた。
「あいつに、何かされた!?」
家康にガシッと肩を掴まれ、ガクガクと揺さぶられる。
その剣幕に一瞬、驚いて目をパチクリさせた後、つい口元がほころぶ。
寄せた眉の上にうっすらと浮かぶ汗。自分の為に走ってきてくれたのかと思うと、それだけで嬉しかった。
私は首を横に振ると、
「ちょっと、勘違い?してたみたいで……でも、三成くんが助けてくれたから!」
身体を反転させる。
やっと三成くんの顔を見れる。
そう、思ったのに……
人混みに紛れたように、
忽然といなくなっていた。