第117章 夏の大三角(18)大会編
一歩下がる。
「冗談はそれぐらいに……」
顔を引きつらせながら、そう言って
また、一歩下がる。
「俺の優勝は目に見えている。お前は今日から……」
俺の女だ。
下がる度に、掴まれた腕を引っ張られ、距離がどんどん縮まる。
私の頬もどんどんピクピク動いて、今にも痙攣を起こしそう……。
(どうしよう……っ!やっぱり、ちょっと怖い…っ)
悪い人ではないみたいだけど、謙信さんの冷たい雰囲気は少し苦手。
「戦利品なのを、忘れたとは言わせない」
目の前のオッドアイの瞳に見つめられ、目が離せなくなる。
会場前は選手の人や、応援の人、一般観客の人で溢れていて、特に私達に気を留める事はなく、通り過ぎていく。
「そ、そんな約束はしてません!」
私は、慌てて否定する。
幸の思い付きの提案?で、家康と謙信さんの勝負に、何故か私からのキスが戦利品になってしまったのは間違いないけど。
彼女になる約束はしていない。
必死に訂正すると、謙信さんは掴んでいた腕を自分の方に勢い良く引き寄せ……
「案ずるな。コレは、今、貰う」
ビクッ。
氷のように冷たい手。
触れられた唇が凍傷したみたいに、小刻みに震えだす。
「やめて下さい……っ!」
「邪魔者はまだ、居ないようだな。俺に負けるのが嫌で、尻尾巻いて逃げたのか?」
「家康は、別でこっちに向かってます!逃げたりしていません!」
必ず、勝つって約束してくれた。
謙信さんも優勝候補なのは、ゆっちゃんから聞いた。でも、それは家康も同じで……この前、一番のライバルは去年優勝した秀吉先輩だって。
謙信さんは全然眼中なしって言ってた。
「少しの間ぐらい、静かにしていろ」
冷淡な笑みが、間近に迫る。
その時。
身体が後ろに引っ張られて。
謙信さんの顔が離れた。