第116章 夏の大三角(17)大会編
更衣室に入る前。
家康に呼び止められて……。
「……行くな」
開口一番にそう言われてポカンとすると、近くにあった倉庫の中に押し込まれた。
薄暗い部屋。
背中に冷たい壁が胴着越しに伝わって、更に半歩近づいた家康。
トンッ……
壁に片手をつくと、挟まれて身動きの取れなくなった私に、真剣な瞳を落として……
「……三成の話なんて聞かなくていい」
「で、でも…っ!大事な話って……」
いつもより低い掠れた声。
ちょっと怖いのに、体中が刺激されたみたいに痺れが走る……
それと同時に首筋にチリッとした熱い痛みが走って……
「ひまりは、俺だけ見てれば良い」
真っ直ぐに。
「行くの?行かないの?……どっち」
行くって言ったら、
俺、何するかわかんないよ。
その耳元で聞かれ、
胴着に手を掛ける家康。
それだけで、
蕩けそうになった私は……
「見てたもん。昨日の大会……家康の背中……ずっと」
まだ真っ直ぐに正面から見れなくて、俯いてそう呟いた。だから、家康がどんな表情をしてたかわからないけど……。
「……明日。絶対、勝つから」
コレ、期待してる。
冗談なのか、本気なのかもわからない。
ただ、柔らかい声が降りてきて。
家康は私の唇に指を滑らすと、
そっと壁から手を離した。
それからは三成くんの所に、
行くな。
とも、行っていい。
とも、言わなくて。
後から鏡で確認したら、
胴着から見えるか見えないか、
際どい場所に紅い印が刻まれていた。
見えないよ…ね?
私は制服の襟をもう一度、
引っ張ると、三成くんの所に
急いで向かった。