第115章 夏の大三角(16)大会編
桜の木の下。
始業のチャイムが鳴っているのにも気づかず、すっかり夢中になって書物を読み進めていると……。
「もぉ〜っ!一体、どこでサボって……あ!!」
珍しくその声に反応した耳。
書物に一度視線を落としたら、読み終わるまで持ち上がらない頭が上がり、ページを捲る手がピタリと止まる。
セーラー服姿の少女は私の元に駆け寄り、スカートの裾を折り畳むようにしてしゃがみ込んだかと思えば……
屈託のない笑みを浮かべ。
「もしかして、君もサボり?」
「へ?サボりですか……?」
そこでやっと、授業が始まっていることに気づき、私はあたふためき急いで書物を閉じた。その時に、うっかり栞を挟むのを忘れてしまい、
「仕方ありません。また、最初から読み直すとしましょう」
「え!?そんな分厚い本、また最初から読むの!?」
「はい。興味深い内容や気になる箇所がいくつかありましたので、栞を挟むのを忘れたついでに」
目の前の少女はポカーンと口を開き、パチパチと瞬きを数回繰り返す。そして今度は、手を口元に添えクスクスと笑い声を零され……
「……???何か、可笑しなことを申しましたか?」
「クスクス……ごめんね?急に笑ったりして。凄く気が長いんだなぁ〜って思って」
私ならすぐ心折れちゃうから。
ふわりとした笑顔。
それを見て直感が働いた私は、
「もしかして、姫宮先輩ですか?」
「え?私のこと知ってるの??」
「はい。噂でお聞きしました。花のように笑う先輩が居ると、以前に」
私がそう言うと先輩はみるみる頬を紅潮させ、そんな事ないと謙遜しながら首を横に振り、同時に両手を顔の前で振る。
(確かに噂通りのかた、みたいですね)
その姿が微笑ましく、
私は口角を両方持ち上げた。