第114章 夏の大三角(15)大会編
息を切らして走り込んできた部員。
何事かと思い二人が事情を聞くと、いつの間にか試合時間が繰り上げて、開始され……
「はぁ…っ。…何か、直前で立ち順変えたみたいでよ。落ちを姫がしてんだけど、結構ヤバくて」
接戦を繰り広げ、三チームから、二チームまで絞れたが、一旦休憩を挟んだらしい。落ちをしているひまりが極限の緊張状態で、一度頬払い(弦を頬にぶつける)をし、そこから調子が落ちていることを話した。
「「頬払い!ひまりが!?」」
「中をやっている副部長が皆中で、何とか的中数は同点だったんだけどよ……」
一度スランプに陥った時は腕をぶつけていたが、今までに頬払いをするのを見たことない。家康と政宗は、会場へと急ぐ。
しかし、二人が着いたのはちょうど試合が開始される直前。選手が立ち位置に現れると……決勝戦は歓声で沸き立つ。
そして、弓を構えた瞬間。
嘘のように静まり返り、シーンとした空気が流れた。
予定通り家康は政宗と共に、左側の観客席に移動し、最前列で仁王立ちする顧問の姿を発見。
険しい顔を浮かべた信長の視線の先に、青白い顔色をして落ちの場所で足踏みし、目線の高さに弓構えをするひまりの姿が。
「射型……思いっきり崩れてるし」
「頬払いビビって、無意識に身体反らしてんの気づいてねえ」
「……貴様ら。静かに見れんのか」
信長は背を向けたまま、低い静かな声色で二人を一喝する。
「……ひまりが落ちやってる理由は?」
家康はそれだけ教えて欲しいと、
珍しく信長に頼んだ。
「……絆だ。甘っちょろいが、あいつの成長には必要だ。黙って見守っていろ」
ある程度の事情を聞いた後、
家康は口を閉ざし、
ひまりを見つめる。
政宗は何故か手摺に背中を向け、
ただ耳だけを研ぎ澄ます。
反対側にいる三成も眼鏡をしっかりと掛け直しこの後、想いを告げる。
その気持ちだけは、揺るがなかった。