第113章 夏の大三角(14)大会編
シーン。
静かに流れた数秒間。
副部長の顔を見る勇気がなくて、俯くと後ろから明るい声が聞こえて、
「……だからね!ははっ!ようやく理解出来たわ!」
え?
私は身体を半分だけ向けて見上げると、副部長は納得した!まさにそんな感じ。私は予想外の反応に一気に拍子抜けする。
キョトンと見上げると、
私の肩に手を乗せながら、
「おかしいと思ったのよ!他の子達は、無理!とか興味ない!とか。だから?とかで振られるって聞いてたのに、私だけ好きな子いる。とか、言ってさ〜」
捲し立てるように、早口で喋る副部長。
「姫が聞いてるの、気づいて。あぁ言ったのね!」
「え??……でも、家康は何にも」
立ち聞きしてるの気づいたら、
趣味悪い。とか嫌味の一つ二つ飛んで来てもおかしくないのに。
そもそも何で私が聞いてたら、好きな子がいるって断る理由になるのかが、わからない。
首を傾げたままでいると、副部長に結い上げた髪をクイッと軽く引っ張られた。
「……気づいて欲しかったのよ。恋愛だけは、不器用みたいだしね!」
「へ??」
「明日の、個人戦の大会。一度前から、徳川くんを見てみなさい!」
背中でも、横顔でもない真正面!
「特別観客席からだと、見えるからね」
副部長は、軽く息を吐いて微笑む。
スッキリした。
まさにそんな感じで……
「恐らくだけど、的が好きな子の笑顔に見えてるのよ。だから、真っ直ぐ飛ぶカレの矢は……」
長い飛距離があっても、
笑い返して、
その想いを届けたい一心でね。
前にそんなことボヤいてたから。
副部長はその日の会話を思い出すように、瞼を閉じた。
(副部長……やっぱりまだ、家康のこと)
私の心の声をまるで読んだみたいに。
「キッパリ諦めるつもり。カレがその子を射止めたらね」
さぁ!表彰台乗りに行くわよ!
まだ、試合前にも関わらず茶目っ気に笑って、私の背中を押す。
確か、合宿所で見取り稽古をして貰った時。
ーー……真っ直ぐに飛んでくように、イメージしてる。
ーー……多分。ひまりが言ってる真っ直ぐと俺の真っ直ぐは違う。
家康はそう言ってた。
最近、背中ばかり見ていた私は……
真正面から見れるの……かな。