第17章 卯の花月(5)
「ふふっ。まさかね?」
「……何がまさかなの?」
思わず口から出ていた 独り言。道場の入り口で待ってくれていた、家康が訝しげに眉を顰める。
何でもなーい。と言って、
「あのね秀吉先輩に朝練だけ、休むように言われちゃって……」
私は暫くの間一緒に登校出来ない事を話した。変に心配掛けるのも良くないと思い、腕のことは黙っておく事にした。
「……そっか、解った」
「あっ!でも、ちゃんと約束は守るから!毎朝、電話するね!」
「別に、無理してなくても」
「無理なんかしてないよ!だって……」
そこまで、言いかけて口を紡ぐ。
だって何?家康に聞き返され、私は笑って誤魔化した。
電話越しに聞く家康の声が、優しいからなんて恥ずかしくて言えないし。
幼馴染って、何でも知ってて言い合えるようで……。
意外と本当の事は知らなくて、素直な気持ちは言い難い存在なの……かもしれない。
家康が頑なに彼女作らない理由も、ちゃんと聞いた事ないし……ね。
「今ね!部の皆んなに大会のお守り作ってて!朝練来れない間、それに専念しようかなって!」
「……子鹿の形は止めときなよ」
「ふふっ。でもアレご利益あったよ?私には」
子鹿のお守りは、
中三の受験の時。
家康とお揃いで私が作った物。
難関校を本来は受験するぐらい成績優秀なのに、ただ、家から近いのと弓道部があるからという二つの理由で、戦国学園を受験した家康。きっとお守りなんか必要が無かっただろうけど……。
偏差値ギリギリの私には、ちゃんとご利益になったと思う。
そう言えば、家康と合格祈願に行った神社。
秀吉先輩のお家なんだよね?
お守り出来たら、行ってみようかな?