第113章 夏の大三角(14)大会編
選手控え室。
決勝戦までの待ち時間のこと。
今朝、あんなに気合い十分だったのに手が震え出し、段々と私達の間に会話がポツリポツリになっていた。
そんな時、
ゆっちゃんが気を紛らわす為、携帯を開いて部員の子達から送られてきたメールを読み上げ、今朝と同じぐらい元気な声を響かせる。
「徳川達!!優勝だってさ!!」
「ほんと……っ!?」
ゆっちゃんは太陽みたいな笑顔で、携帯の画面を見せてくれて、私達は両手を取り合って喜ぶ。
「凄い!凄い!」
ピョンピョン跳ねながら狭い待合室を回り、歓喜の声をあげた。
「こうなったら、何が何でもダブル優勝とらないとね!!」
うん!元気よく頷いた後、私も思わず携帯を確認。すると、家康、三成くん、政宗の三人から一件ずつ応援メールが。
ーー……見ててあげるから。
ーー応援しています。
ーー表彰台で、待っててやる。
三人のそれぞれ違う励ましの言葉。
お陰で緊張は少し解れて、プレッシャーが代わりに押し寄せ……
そこで、気づく。
副部長がさっきから、一言も発してない事を。私は、ベンチに腰掛けたまま髪を高く結い上げ俯く顔を覗き込む。
真っ青になって口元を手で押さえる副部長の姿。
いつも凛とした背中から、重圧の二文字が重くのし掛かっているのが伝わり、
「副部長……」
何て、声かけたら良いのかわからなくてただそう呼ぶ。すると、ゆっちゃんも様子に気がついて私の隣に肩を寄せた。
「私、去年落ちで団体戦…の決勝戦…外して。さっきから…イメトレしてるのにその時の事が頭から…離れなくて」
今まで一度も見た事がない。
副部長が弱気になる姿を……
いつも私達を引っ張ってくれて、
最後を支えてくれて……
「……私ね。この大会で引退するつもりなの。父がね夏休み前から体調を崩して、母の力になってあげたくて……」
副部長は私が作ったお守りを取り出して、力無く笑って見せてくれる。
私達が不安にならないように……
副部長のプレッシャー。
きっと、計り知れないほど大きい。